映画「レディ・プレイヤー1」は現実の物語だった話

極力前情報を入れずにレディ・プレイヤー1を見てきて猛烈に感想を書きたくなったので書きます。ネタバレはガンガンしていきます。ご了承ください。
 
【世界観】
主人公が居住性の悪そうな家から出て、ジャンクの山の隙間に滑り込んでいく。その中には秘密基地のようなプライベートルームがあってそこで主人公は現実から目を背けるようにVRゲームの世界に浸かっている……というシーンから始まる。掴みとしては好印象。最悪な家庭環境から逃避する主人公、いいと思います。
 
映画内のVRゲーム「オアシス」の第一印象としてはユーザーのアバターがなんかバタくさい。人間じゃなくてロボでも架空の生物でもなんでもありの設定なんですけど、ピカチュウとかマリオとかそこらへんの現代ゲーム・アニメの文脈を汲んだキャラがほとんど出てこなくて、日本のオタクカルチャーにどっぷりつかってる人間としてはちょっと驚きました。二次元美少女がいないのは色んな事情がありそうでわかるんですけど爬虫類やバイオハザードの敵キャラみたいなのがゴロゴロいるのはどうなんだ。
 
設定が2040年位だったと思うんですけど多分今の2018年のゲーム・アニメカルチャーが全く発展しなくて、Civilization風に言うとインターネットよりも先にVRの技術ツリーを先に解禁してしまったような並行世界だと思うようにしました。北斗の拳で「199X年世界は核の炎に包まれた」→モヒカン集団の流れに今更突っ込む人もいません。
 

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【衝撃的すぎるゲームシステム】
映画内のVRゲームのシステムとしては無数のワールドが広がっていてみんな思いのまま楽しんでいます。ギャンブルしたり、レースしたり、戦場で争ったり(なんか刺激的なものに偏ってる傾向がある気もするが)。そしてゲーム内マネーの要素もあり、リアルで破産している様子が描かれていることからリアルマネーで課金できるようです。しかしこのゲーム内マネー、PK(プレイヤーキル)によって稼げる。しかもキルされた側はマネーロストどころかアカウント消去という凡百のオンラインゲームの悪質ユーザーもビックリの仕打ちだ。さらにこのPKは主人公がダンスクラブで踊ってる最中にアカウント削除を目的にキルされかけたように別にバトルコロシアムとかに行かなくても突然銃を取り出して問答無用で狙えます。ペナルティとかも多分ない。えぇ……。
 
このオアシスというゲームの創設者ハリデー。この世界線ではジョブズと肩を並べるほどの天才と称されているらしいです。早世した彼が逝く直前、莫大な遺産とオアシスの運営権をあろうことかゲーム内の謎解きゲームの賞金にしてしまう。しかし、その謎解きゲームが鬼畜ゲーすぎたために物語開始時点では主人公含む宝くじでワンチャンを狙うようなモノ好きと利権を得ようと企業ぐるみでチームを組むようなガチ勢しか挑んでいないという状況。謎解きは全部で3つあり、1つ目のレースを逆走するっていうのは自由な発想の方が楽しいよねってことでまだ納得がいきます。2つ目はハリデーの極めてプライベートな恋人との思い出が前提知識。知るかそんなもん。(3つ目は好きなゲームだったっけ?忘れた)結局全部ハリデーの人生がヒントになっていて主人公はそいつの記憶をアーカイブ化した映像を100回以上みて研究しています。ハリデーさん自己顕示欲強いっすね……。この謎解きゲームはゲームが好きかとか発想・機転を効かせるものというよりはハリデーオタク検定でした。
 
私たちは過去のオンラインゲームでユーザーを競争させるとどうなるのかということはイヤというほど知っています。ランキング報酬を求めて時間をつぎ込み、技術を磨き、課金を重ね……そうした客観的に公平性のある方法で勝者が決まるのが鉄板です。しかしこの映画は競争相手は全世界な上に勝者は一人、その上莫大な利権が絡んでいていちオタクが宝島を探す感覚で挑むにはあまりにもシビアです。しかしこの辺はハリデーがワンマンで作ったゲームであることから説明がつきます。ガンダム00イオリアがその才能を自身の信念の為にあえて独占したように、ハリデーは理想のゲームを作るためにあえて宝の地図を実装したのでしょう。まさかヒントで自分語りするとは思っても見ませんでしたが……。
 
【リアルとバーチャルの隔絶】
主人公が女アバター(ヒロイン)にガチ恋して本名をカミングアウトするシーンがある。しかし、ヒロインは「ばかじゃないの。私は見せたい自分を見せているだけ。あなたは幻想をみているだけ。」と一蹴する。それでも食い下がる主人公に敵組織IoIとのバトルでそれどころじゃないと言い、「現実に生きていない主人公にはわからない」と突き放す。やはりこの映画のバーチャルは現実とは分離されているようです。世界中の人々がやっているというだけで従来の「流行りのテレビ番組・ゲーム」みたいなコンテンツにとどまっている。生活空間ではない。だから本名をカミングアウトすると「何考えてんの!?」って呆れられてしまうし、オアシスと現実世界に一線を引いている。今のインターネットはフェイスブックなどの実名制のサービスもあれば、実名で堂々とツイッターをやって活動をしている人もいる。「インターネットを実名でやってはいけない」という常識自体が揺らいでる中、約30年後の設定の彼らの反応はなんとも夢のない話です。それにしたってオタクっぽい設定の割にはリテラシー低いっすね主人公……。その代償としてリアル凸されて襲われる展開に繋がると思うんですけどそもそもあの世界がリアルでもバーチャルでも治外法権すぎてなんとも……。宝クジで1億当たった後にヤクザの前で名乗ったらそりゃ襲われます。
 
それは経済にも表れていて、世界中の人がVRゲームジャンキーになっているのに相変わらず仕事は現実世界でやっている様子です。某Vtuberが仕事の相談もVRの世界で済ませている現状と比較して、バザーで物を売ったり敵組織であるIoIも現実世界に職を持っていて今某界隈で言われているような「現実とバーチャル世界の融合」は殆ど進んでいないようですね。
 
【ヒロインが女なのか……】
ヒロインがリアルで普通に少女です。今おっさんがおっさんにガチ恋してる傍ら、ネットで知り合った女アバターのプレイヤーが女なだけでも驚きです。顔になんか申し訳程度のアザがあってそれをコンプレックスにしているみたいなんですけど、全く気にならない。主人公がバーチャル空間の彼女に「好きだ」と言ってから会うんですけど、映画内で言及されていたように母親と同居している140kgのおっさんがでてきてそこで「見た目なんか関係ない」っていっておっさんとオタクがキスする様子が全世界のシアターに映されたら最高なんですが……。
 

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【は?】
見事謎解きゲームに勝ち、ハリデーの財産とオアシスの運営権を手に入れた主人公はラストシーンで言います。
「オアシスを週二回サービス休止にした。人間はリアルに生きる時間も必要なのだ。リアルはリアルにしかない(ヒロインキスをしながら)。」
最悪な家庭を敵組織が爆破して、金と女と地位を手に入れた人がそれを言うのか……。勿論ハリデーがゲームを優先したために友を失い、その結論に至ったという流れはわかります。しかし絶望の現実からVRの世界に居場所を見つけた主人公とゲームに生きた業界の大天才がそれを言うはあまりにもゲームオタクに救いがなさすぎる……。
 

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なんかウジウジと粗探ししていちゃもんつけてると思われるのも本意ではないので最後に良かった点を挙げます。
 
【俺はガンダムでいく】
この映画の宣伝文句は「メカゴジラvsガンダム」だったんですね。前情報なしで見に行ったので上映前のスクリーンにガンダムがでてオォッてなりました。
でも正直乱戦のときに色んな作品をオマージュしたキャラがチラチラ出てきてその中に10~20秒程度顔出しするぐらいの出番なんだろうなぁと思ってました(実際オーバーウォッチのキャラと春麗がチラ見してました)。しかし実際には敵のメカゴジラ相手にファーストガンダムビームサーベルで肉薄する様子がガッツリ映ってました。しかもデザインがリファインされたバリッとしたイケメンのやつ(Ver.Kaなんですかね?)でメチャクチャかっこよかったです。
ビームサーベルも柄がヴンッ!て出てバックパックのスラスターをゴオォッ!て吹かしてアクロバットかつド迫力のカメラワークでしっかりと魅せてくれる。
 
正直ここまで60点くらいの直球王道アクション映画を見させられてる気分だった身としてはこれだけで許せる気になりました(感想は個人のものです)。
 
 
【総評】
物語自体はさらなる利権を得ようとする悪の組織IoIにゲーム好きの少年少女が立ち向かうといった勧善懲悪のお約束なストーリーで良くもなく悪くもなく普通に楽しめました。いつものハリウッドアクション映画のお約束。最後は主人公とヒロインが熱いキスして画面を引くというところまで徹底していてある種の執念を感じました。これは今のバーチャルコンテンツの未来の話じゃなくてVRを題材にした水戸黄門です。
 
この映画のスタッフには多分今のゲーム・インターネットに触れている人があまりいないんじゃないかと思います。だからPK上等のオンラインゲームだし莫大なカネの絡んだ宝地図を描いちゃうし主人公はハリデーオタクだし「リアルはリアルにしかない」と言ってしまう。しかしそれは別に悪いことじゃなくて恐らく今のコンテンツにどっぷり浸かっている人が未来の話を描くのは難しいからなのではないかと思います。どうしても既存のコンテンツの発想に引っ張られてしまう。
 
実際、VRで自由なワールドを想像した時、カオスなところまでは想像できますが真っ先に思い付いたのが今のVRChatのような世界でした。ファンタジーといってもドラクエやFFのようなJRPGのような発想しかできない。でも映画畑の人だから爬虫類や亜人だらけのアバターが描かれた。今でこそオタクは早く住み着いたからゲームの分野においてイニシアチブをとれる傾向にありますが世界中の人から見たらそれはごく少数で殆どの人はVRChatじゃなくてオアシスの世界が優位になるんだろうなと感じる(それを加味しても設定に粗を感じますが)。
 
だからこそ、オアシスで作られたのは仮想現実の理想郷じゃなくてもう一つの実社会のような印象でした。別に全てのプレイヤーが同じ空間にブチ込まれなくても、オタク・ナードには彼らなりの居場所があったり、社会に溶け込めない人でも居心地の良い空間を作れるのがVRの可能性であり魅力だと勝手に思っている。だから「リアルはリアルにしかない」って言ってスタッフロールが流れたとき「現実だ……」と思ってしまった。
 
もしこの映画のことを「ゲームオタクの心を掴んだ文句なしの傑作だ」というひとがいたらその人とは趣味が合わないんだなと思います。むしろそういう人たちにはどういう所が最高だったのか尋ねてみたい気もします。